第1章

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 大爆笑する花崎に、恵太は苦虫を潰したような顔をする。 「女、地雷踏むとはねぇ・・・・・・ククッ」  ようやく花崎は笑いが収まったようだ。しかし顔は笑ったままの姿が張り付いている。  苛立ちを花崎にぶつけるように、机の上を爪でカタカタ叩く。花崎はにやけ面を恵太へ向けた。 「うっせ、それよか、今度はなんだ?」 「ああ、この男の始末。こいつも悪人だよぉ。あと、隣の家はこの仕事ばれないようにすりゃいいけどぉ、あの女、ヤバげならこっちで始末しとこうかぁ?あ、でも、あんた、情ってもん、欠けてたねぇ」  さすがに仕事の話になると切り替わるようだ。 「結婚詐欺だってぇ。依頼者は復讐したいようだよぉ」  顔に一切の感情を消して、一枚の写真を取り出す。  爽やかな短髪の男の写真。写真の男は、悪人に見えぬほど爽快な雰囲気を持っている。  束縛女の事は頭の隅へ追いやり、写真の男の略歴に目を通す。見た目を使ってか、と呟いた恵太の声に花崎は嬉しげな顔をした。  傍らから色々と話を吹き込む花崎へ一瞥を喰らわし、荷物を手早くまとめる。 「まだあるよぉ。男の手口」 「うっせ。それだけなら、もう帰る」 「つれないねぇ」  ヘラヘラ笑いながら、恵太の右手へ封筒を突っ込んだ。恵太は中身にぎょっと目を開く。 「多くねぇか」 「一週間、でやってねぇ。情報はこちらでも調べるけどぉ、基本お前単独だよぉ」  切りにかかってんのだろうか、と内心の声を押し止め、恵太は平静を装う。しかし、いまいる場所もなにもわからないのだ。ただの写真のなかで男は不敵に笑い挑発をしていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加