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依頼の困難さに比例しているのか、渡された金額はいままでで最高。だが、その金からは強い恨みのようなものも感じる。
「これが最後と思ってくれていいよぉ」
はっと顔を上げ、花崎の目を見ると笑っていた。子供のような無垢な瞳で。
「やるよ」
恵太はそう言わざるを得なかった。
店を開け、久しぶりの仕事に人はあまり入ってこなかった。それでも真夜中過ぎまでやってマンションへ戻ると、由璃という女の姿はなかった。
さすがに半日以上待ち続けられなかったらしい。執念深く待っていそうだったのに、と苦笑いを浮かべる。
マンションの階段を上がり、自分の部屋のドア前で鍵を開けたときだった。
「けーた、帰ったのぉ」
甘ったるい女の声が家の中から聞こえる。鍵は与えなかったはずだと、疑問に思いながらドアから手を離した。
身を引いて去ろうとすると、ドアの開く音がする。恵太は思わず階段に向かって駆け出した。
「けーた、待ちなよぉ、ちょっとぉ」
馬鹿馬鹿しい。部屋を荒らされたらヤバイかもしれない。あっちの仕事道具は別の場所に隠したはずだけれども、ばれない保証はない。
第一別れたつもりなのだ。女のしつこさに顔をしかめた。
誰かに電話するような時間帯でもなく、車にのって一晩過ごした。
朝になり、眠れなかった辛さを覚えながら、背伸びをする。女が出掛ける時間帯を見計らって家へ向かうと、丁度隣が顔を出していた。
「あ、お隣さん、昨日、彼女うるさかったですよ」
爽やかな男が眉宇に怒りを浮かべ、恵太に詰め寄ってきた。恵太はため息を吐く。
「あいつ、彼女じゃねぇよ」
「は?彼女じゃない・・・・・・?」
「別れた。あと鍵渡してないのに勝手にはいられてたな」
呟いた言葉に隣は目を見開いて、信じられないと呟いた。その言葉が、なぜか恵太の耳について離れなかった。
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