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床に投げ捨てられた彼女はピクリとも動かない。恵太の目からは、はじめて涙が流れた。
「へぇ、あんたでも泣くんだぁ。あ、今回の仕事ねぇ、始めっからあんた騙すためだよぉ」
花崎は冷たい目をして、恵太の頭をつかんだ。
「こっちの才能たっぷりのあんたをオレの後釜にするってさぁ。嫌だよねぇ。そんなの、潰すよ、オレは」
恵太は精一杯睨み付ける。花崎は意に介さぬように髪を離し、恵太の頭を蹴った。
「仕事と言えばやるよね。抜けたがってんだし、最後っていえばさ、一生懸命するんだし。あ、写真は新しい部下に付き合ってもらったのぉ」
鼻にかかったような笑いは恵太の心を抉っていった。叫ぶことも、逃げることも、できない。
「余裕余裕。演技かしらないけど、彼女さん、気が狂ったじゃん?チャンスと思ってさぁ、猫をヤって、彼女さんの仕業に見せかけたのぉ」
恵太の瞳にいまは暗闇しか映ってない。虚ろに花崎を見ていた。
「で、あんたが彼女さんをヤらないからヤったげた。あ、彼女さんの体よかったよぉ。上玉だけど、機密を調べあげよったからねぇ」
花崎は恵太の懐から銃を取り出した。
「今度はあんただよ」
頭へ突きつける。カチリとを合わせた音がした。恵太は目を瞑った。
しかし、銃声は鳴らなかった。外から乱入してきた音と花崎らの怒声と誰かの冷静な声が混ざりあう。
「お隣さん、大丈夫?」
そして恵太にかけられた声は光に包まれていた。
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