第11章

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〔2〕  来栖弘海が素直に約束を守るとは、初めから期待していなかった。 (やっぱし、すっぽかされたかなぁ……)  須刈アキラはそう思いながらも夜まで待ち、来栖の家に電話をかけることにした。  何しろ自分は嫌われている。いまさら来なかった理由を聞いても仕方ないが、事態は急を要するのだ。  だが電話で応対した母親は、冷たい口調で「土曜から館山の友人宅に行っていて、いつ帰るかわからない」と言う。少し嫌な予感がして、館山の友人の名を聞き出そうとしたが母親にはわからない様子だった。  アキラは、月曜日に直接本人を問いただす事にして、その場は電話を切った。  ところが月曜日、来栖は学園に姿を現さなかった。  水曜日になって両親が警察に捜索願いを出したらしいと、アキラの耳にも噂が入ってきた。予感が、現実にならないことを願いながらも胸騒ぎが抑えられない。 「秋本、おまえ神崎刑事の携帯番号知ってるか?」  昼休み、体育館で学園祭の準備をしている秋本遼を見つけアキラは声をかけた。 「えっ? ええ、わかりますよ」  遼が上着のポケットから携帯を取り出す。 「なんか、あったんすか?」  そのやり取りに気付いて、手伝いをさせられているらしい優樹が組み立て中の展示版下から興味深そうに顔を出した。アキラは思案を巡らせ重い口を開く。 「日曜日、来栖と会う約束をしてたんだが、すっぽかされてね。まあ、それは予想してたんだけど……」 「噂で聞いてます。来栖先輩、土曜日から行方不明らしいですね」  神崎の番号を表示した携帯を借りて、アキラは場を外し電話をかけた。  事情を説明すると、意外にも神崎は「解った、これからすぐにそちらに行こう」と言っただけだった。  厳しく責められることを覚悟していたアキラの心中に、むしろ不安が増幅する。それと共に、信頼を裏切った罪悪感がわき上がった。  心配そうに見ていた遼に携帯を返し、苦笑する。 「今から、神崎刑事がこちらに来るそうだ。学園祭の邪魔にならないように『ゆりあらす』で話が聞きたいというから、すまないが二人とも午後の授業をエスケープしてもらえるかな」 「いいですよ。でも、一体何があったんですか?」 「来栖に何かあったら、俺のせいだ」  そう言ってアキラは、自分でも気付かないほど強く手を握りしめていた。
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