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「下らない発想だな、もし君が遼をそういった目で見ているのだとしたら実に不愉快だ。これ以上、君の話には付き合いきれないよ、帰りなさい!」
「いいんですか? 僕の友人や警察は、榊原絵里香に絡んだフィギュアモデルの制作者を捜している。僕が黙っていれば、たぶん貴方まで行き着くことはないでしょう。貴方が殺人犯かどうかなんて、どうでもいいことなんだ。僕は秋本が欲しい、それだけです。貴方が口を利いてくれれば、たぶん秋本は嫌と言わない。どうです? 取り引きしませんか?」
「大人しく、帰ってくれればよいものを……」
大貫は深く溜息をついた。
「確かに君の言うとおり、私は以前フィギュアを制作していた。しかし随分と昔の話で、モデルは江里香じゃなく私の姉なんだよ。たとえ、それが警察に知れたとしても、困ることなど何もない……今となってはね」
期待した結果が得られないと解ったのか、ようやく来栖は諦めたように席を立った。
「わかりました、帰ります。今の話は、どうか無かったことにして下さい。秋本をモデルに欲しくて、ちょっとしたハッタリを賭けただけです。貴方のことを他の人に話したりはしませんから」
ドアに向かう来栖の背を、暫く黙して見送っていた大貫は、思うところがあって声をかけた。
「……待ちたまえ、来栖君。君の言動は腹に据えかねるが、熱意だけは認めてあげようじゃないか」
「えっ?」
意想外の言葉に驚いて来栖が振り返ると、傍に大貫は歩み寄った。
「そう……せっかく来てくれたんだし、良かったら私の作品を見ていかないか? 遼から聞いているが、君は美術的才能に長けているそうだね、憧れていると言われたら悪い気はしない。私の作品が君の向学の為になれば嬉しいよ」
少し、迷うように来栖は視線を泳がせた。
が、手を肩に置き親しげに笑いかけると、嬉しそうに頷く。
「あの、さっきは変なこと言ってすみませんでした。本当に作品を見せて貰えるんですか? 本物が見られるなんて、願ってもないけど……」
「もちろんだよ、では私の自室に案内しよう」
大貫は、来栖を促し部屋を出た。
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