第3章

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〔1〕  むき出しになった茶褐色の断層が、海に反射する朝日を照り返していた。  断崖に沿って叢雲学園の裏門へと続く急な石段を、バスで通う学生達が次々と降りてくる。その早朝の様子が、まるで蟻の行列のようだと優樹はいつも思っていた。  バス通学を嫌い、優樹は『ゆりあらす』から毎朝オフロードバイクで通っているのだが、心地よい潮風を受けて海岸沿の道を走るのは本当に気持ちがよかった。  半島の西を向いているこの岬から朝日は臨めない。それでも天気の良い日の海は美しく輝いて、つかの間意識を遠く現実から離れたところへ運び去ってしまいそうになる。  いつものように、青龍のレリーフのある正門の前でバイクを停める。  だが駐輪場まで押していく途中、学園が普段とは違った空気に包まれていることに優樹は気が付いていた。既に学生の多くが、石膏像の中から見つかった死体のことで何やら噂しあっているようだ。  田村から、遼が暫く学校を休む事を聞かされ優樹は内心ほっとしていた。  結局土曜の夜から話をする暇がなく、わだかまりが解けないことに不満が残っていたからだ。その気持ちのまま学校でクラスメイト達の好奇の目にさらされるのは、我慢がならなかった。 「よっ、おはよう! 優樹」  駐輪場で呼び止められ優樹が振り返ると、クラスは違うが剣道部で一緒の日比野が、少し離れたところで手を振っていた。  よりによって、一番厄介なヤツにあったと顔をしかめた優樹の心中など気にもせず、日比野はスクーターを隣によせた。 「なあ、おまえ昨日大変だったんだろう? 聞いてるぜ」 「なに聞いたか知らないけど、俺の方は別になんでもないよ」  バイクのスタンドを立てて、優樹はタンデムシートに括ってあった学生鞄を肩に担いだ。  話し好きの日比野に、朝から関わりたくはないと言う気持ちが正直なところだ。噂話が好きな男で、口の軽いところが気に入らない。 「そっか、そりゃそうだ。当事者は秋本なんだって? 石膏像の中にあった死体がアイツのお姉さんだったなんて、すげえよなぁ」 「おまえ、どこから聞いてきたんだよ」  背中越しに聞いた優樹に、へへ、と、日比野は得意そうに笑った。
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