第1章

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   色から考えてあまり宜しくない、恐らくは常軌を逸する程の激辛だろうと思われた鶏肉の謎煮込みは、刺激的な辛味がエキセントリックながら料理自体は中々美味だった。  食べ終わった後、世間話をしていると、話の流れから彼女らが住んでいた場所の話になった。  聞くところによると、彼女ら二人はこの国からずっと南に行ったところにある国から来た、つまり外国人であるらしい。  その国は、車で二日も走れば横断できてしまう小さい国だそうだ。  温暖湿潤の気候と豊かな自然に恵まれた、とても住みやすい国であるせいか、国民は人の良い人が多く、小さい国なので国中の皆が家族のようになっているので、犯罪なども滅多に起こらないらしい。  旅人が来たら歓迎し、困っている人は出来る限り助ける。そんな馬鹿みたいにお人好しな人ばかりの豊かな国。  羨ましい限りだ、と私は思った。  私の住むこの国は、横断するのには最低でも1ヶ月は掛かる広い国だ。  かつてはある程度自然豊かな国だったが、地下資源が豊富なのに目を付けた国の上層部が長年採掘を続けた為に、自然環境がシッチャカメッチャカになっていて、治安も都市部はあまり良くない。  「――じゃあ、人が人を殺したり人の物を盗んだりなんて事がこの国では結構あるの?」  「――それはもう、毎日のようにある。だからこの国の人間は、皆が皆犯罪を犯す者だと思い込んで、隣近所で監視し合っているんだ」  「・・・そうなの?」  私はこの国のありのままを語ったのだが、彼女は何だかきょとんとした表情で、緑色をした大きな目でこちらを見つめてくる。  昨日この国に着いたばかりなのもあるだろうが、えにかいたような天下泰平国家で生まれ育った彼女には、そんな〈分〉単位で犯罪が起こるようなこの国の現状は信じられないどころか、異次元すぎて何が何だかよく分かんないんだろう。  だから何の警戒心もいだかずに、容易に他人の家に昼食の誘いに押し掛けたりする事が出来るんだろう。  ・・・羨ましい限りだ・・・・・・。
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