第1章

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   その二人が隣に越してきたのは、朝からにわか雨の降っていたある日曜日のことだった。    「はじめまして、隣に越してきたミア・リュートと言います」  黒いパーカーを着た背の高い金髪の女性はそう言って、「つまらない物ですが」とクリーム色の紙袋をこちらに差し出した。  「御丁寧にどうも。こちらこそ宜しく」  私は笑顔でそう言って、その紙袋を受け取った。その時、  小さな手が女性の裾を掴んで引っ張った。  「ねえミア、お部屋の片づけ終わってないよ」  そう言って、女性の影から出て来た緑のパーカーの男の子は、早く行こうよと言うように黒いパーカーの裾を引っ張った。  「あれそうだっけ?」ミアと呼ばれた女性が少しとぼけたように言うと、  「そうだよ。箱開けただけで何にもしてないのに、ミアったら<お隣に挨拶に行く!>なんて言って、部屋の荷物み―んな放っぽって買い物行っちゃってさ」  男の子が少し怒ったように言うと、ミアは笑って言う。  「あははごめん。ところでココ、あなたもお隣さんにご挨拶して」  ココと呼ばれた男の子は、そこで初めて私の存在に気が付いたようだった。初め驚いたように目を丸くし、それから私に向かって、幼い子供が初めて会った大人に対してするように、ぺこりと頭を下げた。  それから顔を上げ、子供らしい無垢な笑顔で挨拶する。  「はじめまして、ココ・リュートです。これからよろしく」  悪意の欠片も見当たらない可愛らしい笑顔を見て、思わず私も微笑んだ。  それから少し三人で他愛もないことを雑談したりして、二人が隣の部屋に戻った時には、暗く重たい雲に覆われていて時折奇襲攻撃のように雨を降らせていた空があちこちに薄い雲を残す程度になり、太陽はすっかり真南に上っていた。  じゃあね、と言ってミアとココは玄関のドアを閉めた。  そのあと外から聞こえた会話の内容から考えて、これから部屋の片付けに取りかかるのだろう。  夕べ越して来たと云うことは、家族構成にもよるが結構荷物は多いと思うが、まあよほど大変そうだったら手伝いに行ってみようか。
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