第1章

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   私は書斎に入り、壁の装置を操作して、書斎全体にサイレンサー・ブラインドをかける。これで外からの音は聞こえるが、私のいる書斎で私が何をしているか誰にも分からない。  それから自分の鞄の中に手を入れ、プリンのような形をした黒い機械を取り出し、底面の赤いボタンを押した。  しゅうっ、と音がして上部の空間に青緑色をした小さな歪みが現れ、やがて青い軍服を着た若い男の姿になる。  男は私に冷たい視線を投げかけ、何の感情もこもっていない声で言う。  「№0064号、報告をせよ」  そこで私は一週間の報告をする。と言ってもここ一週間特に何事もなかったので、報告は短く済んだ。  短い報告が終わるまで、男はじっと私の言葉を聞いていたが、報告が終わって私が黙ると、男が口を開き、そして言う。  「――成る程、ご苦労だった。  ところで―――、  先程お前の部屋を訪れていたあの二人は誰だ」  「――あの二人は、夕べ隣に越してきたそうです。  例の組織とは、何の関係も無いと思われます」  「そうか――まあいい。引き続き組織を監視して、また一週間したら報告してほしい。あの二人に関しては――」  「《――近在人程度の仲に留め、なるべく多くの情報を聞きだし、 深くは関わり過ぎないようにしておくこと》」  「――そうだ。そしてお前自身の事を、くれぐれも感づかれんようにな」  「わかっております」私は背筋を伸ばして敬礼した。男はその様子を見て少し力が抜けたようだったが、やがて先程と同じ青緑色の歪みの中に消えていった。  私は装置のスイッチを切り、部屋のサイレンサ―・ブラインドを消した。椅子にもたれ掛かり、あの二人の事を考えた。  透き通った金髪に緑の瞳の、十代後半か二十代前半ほどの女性と、栗色の髪と藍色の瞳の八,九歳ほどの男の子。  本人たちの話では姉弟と云うことだったが、年が離れ過ぎているし髪や目の色も違う。  まあその辺りは父親だか母親だかが違うと言ってしまえばそれで済むのだが、それにしても何かが引っ掛かる。  一体何が引っ掛かるのか――どうしてもそこが分からない。  
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