第1章

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 「も―、何処行っちゃったのかなー」  完成した料理(?)のはいった鍋をテーブルの上に置き、ミアは不機嫌に呟いた。  「もしかして、また逃げられたのかなー」  その通り。当のココは近所のコンビニに昼食を買いに行っている。  「だとしたら、このご飯どーしよう。一人で食べるのさびしーし、お隣の人と一緒に食べようかなー。」  それはやめた方が良いと思うぞ。  「そーだ!お隣の人と食べよ―!」  だからやめろって・・・。  ミアとココの住んでいる507号室は、彼らの住むアパートの最上階である五階の階段から一番奥にある角部屋で、一つ手前の506号室が、先程の青年が住んでいる部屋だ。  506号室のドアチャイムを鳴らすと、「はい」と寝起きのような声が聞こえて隣人が扉を開けた。  「こんにちは~」  私が扉を開けると、朝方引っ越してきた少女が立っていて、にこやかに笑って言った。  「お昼作り過ぎちゃったんですけど、一緒に食べませんか?  「いいですけど・・・。ココ君は何処へ?」  弟の姿が見えないのに気が付いて、私が彼女に問うと、彼女は少しきょとんとした顔をしてから「ああ」と笑って、  「弟は・・・目を離した隙にどこかに散歩に出かけたようで」  ミアの顔も声も怒ってはいないようだが、〈逃げたなあの野郎〉と云う刺すような〈声〉がどこかで聞こえる。  ココ君の気持ちも少し解かるような気がする。私は彼女の持っている鍋の中に入った、最早食べ物にはとても見えないドス赤黒くて不可解な匂いのする得体のしれない物体を見つめてぼんやりと思った。  これを今から食べるのか・・・  彼女と一緒とはいえ、これは少々食べ物とは言えないような・・・  そう思った時、少し体が重くなった気がした。
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