幸福

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  《そこの塀を飛び越えろ》  確かに、聞こえた。  前後をもう一度確認する。男たちは徐々に私との距離を詰めてくる。前の男たちの奥にある脇道、そこに……人影?  私は導かれるようにしてすぐ右にある塀を乗り越えた。  その瞬間、銃声が鳴り響く。どうやら私を追ってくる男達の足元に発砲されたらしい。  何て精度だ。こんな暗闇で確実に狙ってくるなんて。 「なんだ!?」 「後ろだ! お前らは姫を追え、俺らは銃のやつを追う。もしかしたら‘青’かもしれねぇ」  もう、立ち止まってはいられない。私は塀を超えた先に続く一本道を走り出す。後ろではまだ何やら騒ぐ声が聞こえた。それも一瞬だろう。足を止めれば、またすぐに追いつかれてしまう。  少し行くと別れ道に出た。直進か左折か。迷っている暇なんてないのに、私はそこで足を止めてしまう。どうしよう、焦りと不安ばかり募ってゆく。  その時、真横の壁から人影が飛び降りてきた。 「こっちだ」  人影は小声でそう言うと私の手を引いいて走り出した。すぐに後ろから男達の声が聞こえてくる。けれどもう振り返らない。きっと振り返ったら、足がすくんでしまうから。
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