第1章

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「こんにちは。このたび東京から越してきた為替 玉人(かわせ たまと)です」 僕は驚いた。なにしろその名前は、最近テレビやCMで引っ張りだこの若手の俳優と同じだったからだ。 サングラスと帽子で顔半分は隠れているが、口元や背格好は本人のようだった。 以前『憧れの芸能人』というアンケートでその名前を書いたことがあるくらいなので、僕の目に間違いはないだろう。 「玉人さん、いつもテレビ見てます。どのドラマも玉人さんの演技力に魅せられて楽しませてもらっています。これからも応援しているので頑張ってください」 信じられない状況のせいなのか、自分でも驚くほど饒舌だった。 自分の発言に玉人が気分を悪くしたのではないかと思ったが、そんなことはなかった。 「ありがとうございます。あなたのような応援にはいつも励まされます。演技力はもっと磨いて、視聴者にも、製作者にも満足してもらえるように精進したいです」 玉人はそう言ってニッコリ笑った。
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