隣人

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がたん、がたん。 『…で…ちです!…い、そう…』 寛いでいると、玄関の方から聞こえてきた大きな物音と遠くに聞こえる複数の声。 テレビも、ネットも、音楽も何もつけずに読書に集中していた意識に入り込んでくる雑音。 もちろん、それが不快だったわけではない。 アパートという集合住宅に住んでいる上に、自身がいる部屋には余計な音がない。 そんな状態で外から聞こえてきた音を、『騒音』と捉える程、自分は非常識ではないと自負している。 「…お隣さん、引っ越してきたんだ…」 ぽつり、と独り言を零す。 きっと会うことはないだろう、と思いながら…。 私の名前は杉田美子(スギタ ヨシコ)。 28歳。 週休2日、祝日も休みな上に有給休暇も取りやすいという恵まれた職場で事務員を務めている…いわゆるOLである。 生家は山奥にある為、高校を卒業し大学に進学すると同時に一人暮らし。 当然、社会人になった今も一人暮らしである。 彼氏いない歴イコール年齢なので、同棲などということもしたことはない。 …一人は気楽だ。 それを最大の言い訳にして、恋愛には目を向けないようにしている。 理由は後で解るだろう。 ただひとつ。 親からの『結婚しないのか』アピールは勘弁してもらいたい、と思う今日この頃。 隣室は2年程前から空室だった。 隣室と壁を共有しているのは洗濯機や浴室がある方。 …今まで時間を気にせずシャワーを浴びたり洗濯をしていたりしていたが、日付が変わる前には終わらせるように気を付けないといけないな。 がたがたと壁越しに聞こえてくる物音と、玄関から聞こえてくるおそらく引越業者と思われる人物の話し声にそれとなく耳を傾けながら思う。 …うん、ホントに気を付けよう。 騒音問題で隣人トラブルとか、マジ勘弁。
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