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「…くっそ。寝覚めワリィ」
先日、亜美が余計なことを言ってくれたおかげで夢にまで出てきた九年前の出来事。仕切り直しに二度寝をしようと、布団をかぶり直したところでインターフォンが鳴った。
サイドテーブル上のLED時計は、十一時半を指していた。同時に腹も減ってきた。
諦めて玄関に向かい、訪問者を確認することもなくドアを開ける。
「お前、突然すぎるぞ」
この前会社の前で鉢合わせた時もそうだが、こいつは約束を取り付けるということを知らないんじゃないのかと心配になった。
「兄弟でそんなの言いっこなしだろ」
遠慮なくズカズカと部屋に上がり込んだかと思えば、ソファのど真ん中に腰を下ろす。
「日曜ぐらいゆっくりさせろ。要件は?」
「あ、いや…あのさ、」
煮え切らない秀次郎の返事。十中八九、由宇のことで間違いない。
「この前、さ。由宇、先約があるって言ってたけど、誰とだったんかな?」
「お前が押しかけてきた日か」
押しかけた、という表現がどうやら不服だったようで、ストーカーみたいに言うなよ、と秀次郎が反論する。
「あれだろ?一緒にいた同期の女とじゃね?」
俺だって、まさか黒川との約束だなんて思っていない。由宇は間違いなく、“男”と会う予定だった。
秀次郎にしては鋭い。
「違うと思う…あんなに綺麗にしてたし、男なんじゃないかって、少し嫌な予感がしたんだ」
気付いていないフリは、ずっとしてきた。でも、秀次郎が本音をぶつけてきた今、下手な演技は続けられない。
ここらが、限界。
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