ピアノの音

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ピアノの音

 バス停までの道のりに、いつもピアノの音がする家がある。  そこそこ大きめの洋館で、音色は二階の部屋から聞こえていた。  習ってる娘さんとかがいて、熱心に練習してるのかな。あるいは奥さんが弾ける人なのかな。  家の雰囲気から、勝手に家族像を想像し、聞こえるメロディーに耳を傾けた。  そんなある日。  今日も流れるピアノの音。それがたまたま知っている曲だったから、私は足を止めて音色に聞き入った。その肩をふいに軽く叩かれた。  振り返ると、そこには見知らぬおばさんがいた。いかにもな普段着の様子からして、ご近所の人かな。 「あなた、そこで何してるの?」  ご近所さんなら、通りすがりの人間がよそ様の家の側で足を止め、立ち尽くしていたら不審に思うよね。  やましいことをしている訳じゃないけれど、怪しいものじゃないってことをちゃんと説明しておかないと。 「何ってことでもないんですけど、ここの家からピアノの音が聞こえてきて、それがたまたま知ってる曲だったから、つい、聞き入っちゃってたんです」  通りがかるたびに聞こえるくらいだから、ご近所さんはこの家のピアノに苦情を言ったりしていないのだろう。実際、素人の耳にも腕前はなかなかだからよっぼど早朝や深夜でもない限りは、これに文句を言う人間はいないだろう。  そのレベルの旋律だから、通りがかりに聞き惚れていたと言えば多分判ってくれる。そう思って素直に事実を述べたら、途端におばさんは顔色を変えた。 「ピアノ? ピアノの音が聞こえるの?」 「? ええ…」  確認のように問われて頷くと、おばさんの顔はますます青くなった。どうしたんだろうと思った瞬間、おばさんはけたまましくこの家のことを説明しだした。  それによると、この家は、もう五年も前から空き家だというのだ。  五年前、この家の、まだ小学生の娘さんが交通事故で亡くなった。一人娘を失ったご夫婦は嘆き悲しみ、娘さんの思い出か残るこの家で暮らすのはいたたまれないと、どこか遠くへ引っ越してしまったという。その際に、娘さんが毎日のように弾いていたピアノも、見れば思い出すからと処分してしまったとか。  そういう訳だから、この家には人なんていないし、ましてやピアノの音が聞こえる筈もない。もし聞こえたとしたら、それは…。  その先はとても口にはできなかったらしく、おばさんは私に、もうここには近
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