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お盆がすぎると、とたん朝夕の風が涼しくなった。やがて蝉の声に変わり、草叢からコオロギの合唱が盛んに聞こえるようになる。
八月最後の日。
川辺の土手に座って空を見上げると、とんぼが飛び交い、もう秋のような薄い雲が高い空に浮かんでいた。
あんまりにも高く澄んでいて、そのまま吸い込まれそうな心地になる。
河川敷には親子やカップルの姿もちらほら見えた。俺は彼らからなるべく離れて、一人ぼんやりと草の上に座っていた。
散歩にと連れ出したシロは、川辺に咲くコスモスの間を転げるようにして蝶を追いかけている。
膝に頬杖をついてそれを眺めながら、一人と一匹の生活もすっかり板についたなと思う。
もう、いなかった頃を思い出せないくらいだ。
最近はこうして、たまにシロを外に連れ出していた。玄関をカリカリ引っ掻いて、振り返って出せと訴えるから。
出て行きたいのかと諦めの気持ちでドアを開けてやれば、今度は腕に飛び乗ってきて、よし、歩けとばかりに鳴く。
結局、連れ出されているのは俺の方なのかもしれない。
思い返して頬がゆるむ。
ふとシロはと見れば、茂みに隠れたきり姿が見えなくなっていた。
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