8月31日 blue moon

2/23
1605人が本棚に入れています
本棚に追加
/331ページ
 お盆がすぎると、とたん朝夕の風が涼しくなった。やがて蝉の声に変わり、草叢からコオロギの合唱が盛んに聞こえるようになる。  八月最後の日。  川辺の土手に座って空を見上げると、とんぼが飛び交い、もう秋のような薄い雲が高い空に浮かんでいた。 あんまりにも高く澄んでいて、そのまま吸い込まれそうな心地になる。  河川敷には親子やカップルの姿もちらほら見えた。俺は彼らからなるべく離れて、一人ぼんやりと草の上に座っていた。  散歩にと連れ出したシロは、川辺に咲くコスモスの間を転げるようにして蝶を追いかけている。  膝に頬杖をついてそれを眺めながら、一人と一匹の生活もすっかり板についたなと思う。  もう、いなかった頃を思い出せないくらいだ。  最近はこうして、たまにシロを外に連れ出していた。玄関をカリカリ引っ掻いて、振り返って出せと訴えるから。  出て行きたいのかと諦めの気持ちでドアを開けてやれば、今度は腕に飛び乗ってきて、よし、歩けとばかりに鳴く。  結局、連れ出されているのは俺の方なのかもしれない。  思い返して頬がゆるむ。  ふとシロはと見れば、茂みに隠れたきり姿が見えなくなっていた。
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!