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携帯電話の向こう側で、呼び出しコールが二回、三回、四回……。
梅雨が空け、いよいよ暑さが本格的になっていた。
つけっぱなしのテレビでは、しきりに五輪のニュースで騒いでいる。
画面が変わって天気予報になった。今夜は満月のようだ。
コールが途切れて受話器が上がる音に、思わず背筋が強張った。
「──もしもし。父さん?」
電話をしながら窓をみやると、眩しいくらいに空が青く光っている。
薄暗い部屋に慣れた目には刺すように痛く感じて、腕を上げて瞼を眇めた。
久しぶりに聞いた父さんの声は、どこかよそよそしく感じた。たぶん気のせいなんかじゃなく。
「お盆は帰らないから。……うん、それだけ」
言葉少なに用件だけ告げて、儀礼的な気遣いの言葉に曖昧に頷いて電話を切った。
くっきりとした青空の下で、蝉がうるさいくらいジリジリと騒いでいる。
一人きりの部屋に佇んだまま、手の中の携帯を見つめていた。
託卵されたカッコウの雛。それが俺だ。
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