8月2日 満月

3/6
1608人が本棚に入れています
本棚に追加
/331ページ
 たまたまやった病院の検査でという、最悪の形で事実が露呈した日から、父さんは俺と目を合わせなくなった。俺もまた、正面から見つめることができない。  スーパーの店主で明るく朗らかだった母さんは、今じゃ家族にはぎこちない笑みを向けてくる。  従業員さん達にまで知られたわけじゃないだろうけど、店主とその夫が気まずく避け合うとなれば、微妙な雰囲気は伝播するものだ。  家庭だけどころか職場まで、逃げることも出来ずに互いに抱え込んで持て余している。  そんなぎすぎすした空気の中心に、俺という異物がいた。  いつの間にか足元に来たシロが、俺を見上げてニャァと鳴いた。  抱き上げて頬を寄せる。ちくちくと触るヒゲがくすぐったい。  ──あの家に俺はいない方がいい。      けれどどこに、俺の居場所はあるんだろう。
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!