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僕はなぜここにいるんだろう。ひらひらと風に揺れる外套の裾をきゅっ、と掴む。理事長はそれには気づかないのか、いやこの人のことだから気づいても僕のことなど気にしてないのだろう。ただ、意味のない杖をコツコツとつきながら早足で歩いていく。そのあとを半ば駆け足で後を追う。
僕はここにいていいんだろうか。何度だって考える。研究員からは歓迎されている。僕の能力は『貴重』なんだって。でもそれは、物珍しさの域を出ないんだ。珍しいからみんな気にかけてくれるだけなのだ。でもそれは、本当の僕じゃない。能力者であることは僕に価値をプラスしている。でも、それは本当の僕の価値じゃない。
「ねえ、理事長。また外にいくの?」
「私の本分ではないがね。まあ、しなくてはならないものは仕方ない。君は生徒会か抑政会にいっておくといい」
こくり、と頷く。もとより足止めなどするつもりはない。自分なんかにこの人を縛り付けることなんて出来ないから。それでも聞いてみたのは少しでも居てくれるのではないかと期待したからだ。一人で彷徨くことさえままならない自分にとってはこの人は杖のようなものだ。どこにでも行けるようにしてくれる魔法の杖。でも、本当は無くても歩けない訳じゃないんだ。理事長の使っている杖と同じ。不要なはずだけど必要不可欠なもの。それが理事長にとっては杖であり、僕にとっては一緒に居てくれるだれか、なのだ。まあ、杖は理事長の武器だし、僕が人を必要とするのにもそれなりに理由はあるけれど。ごく自然な動作で理事長は僕の手を外套からはずす。僕は黙って手を降ろし、結界を越えていく理事長を見送る。いつも通り。さて、僕は僕の仕事を片付けなければ。
カオス学園の副理事長というのはそれなりに忙しいんだ。これでも、ね。
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