一章

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 僕のつまらない生い立ちから語るとすれば、そのためには長月家という小さな陰陽師の家系について話さなくてはならないと思う。子供の頃から目は朱、髪は銀という今らしい外見をしていた僕だけれど、その生まれだけならば由緒正しき陰陽師。  とはいえ、かつては政を司り、未来を読んでいたと言われる陰陽師も今は地域に根差す便利屋といっても差し支えのないレベル。廃業の続くそのなかでも長月家は辛うじていまだ陰陽師の体裁を保ったまま占いや厄払いを行っている数少ないうちの一つなのである。現在当主は長月律。次期当主は長月珠莉。まあ、そんなお家制度みたいなものを濃く残した家系の分家の生まれだ。  僕自身はというと家の才能は全くといっていいほどない。見えぬものは見えぬし、占いもからきし。人並みより多少知識がある程度なのだ。そんな中途半端な家で生まれた僕が能力者だと分かったのは相当後になってのことだった。だから、生まれてしばらくの僕はごく普通の長月家の子供として育てられた。陰陽道を学び、礼儀作法を学ぶ。たとえ分家で才がなかろうとごく当たり前の行為としてそれは行われる。僕としてもそれは嫌いではなかった。だから、ごくありふれた日常が崩れたときは混乱したのをぼんやりと記憶している。  僕が能力者だと判明したのはちょっとした騒動が原因だった。長月珠莉が能力者であると判明し、家を飛び出したのである。家系的に能力者が出る家であるかもしれないと研究者による調査が行われ、それに引っ掛かったのが僕だったってわけ。どうやって見抜いていたのかは今でもわからない。 僕の『調査』は厳しく行われた。体力チェック、知能測定、暴力や催眠術。子供であったからこそ加減はされていたのだろうと思うものの、それは半ば拷問に近いところまで達していた。結局その研究者はさじをなげ、研究対象として僕をここ、カオス学園に送り込むことにしたらしい。なぜならここは能力者の学園であると同時に、能力者の研究所だから。
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