第1章

3/7
前へ
/7ページ
次へ
そう言うと、隣の部屋に入っていった。お隣さんか。 最近はショックで朦朧としていたから、お隣の空き室に誰かが引っ越してきたのすら気付かなかった。 ていうか、人が住んでいなかった時と同じくらい静かだったけど? 俺はその足でコンビニに向かい、食料を仕入れ、自宅に帰った。 珍しく、久しぶりに食欲がわいて、まともに飯を食うことができた。 ナナミさん。もちろん、苗字だよな。 人間など現金なものだな。俺は、彼女を意識している自分が復活していることに苦笑いした。 翌朝、久しぶりにサボっていた大学へと足が向かった。 鍵をかけながら、チラリと隣の表札を見る。 「名波」 やはり苗字か。下の名前まで入れると、女の一人暮らしがバレて物騒だもんな。 下の名前、知りたいな。俺の中から、すっかりマユのことが抜け落ちていた。 俺はようやく、スマホの待ちうけのマユを消し、そして、アドレスからマユを消すことができた。 俺の大学へ行きたくない理由は、マユと出会うかもしれないということと、このクソ教授の講義を受けなければならないこと。そう、マユは俺より、自分の便宜のため教授を選んだのだ。 キモっ。俺はこいつとブラザーなわけだ。言っておくが、マユは、俺のお古だ。お前が後だからな? 睨みつけながらも、俺はしっかりと講義を受けた。 「なあ、今日、O女子大と合コンなんだよ。お前、来るだろ?」 なんで来る前提なんだよ。タクヤのフットワークの軽さには参る。 「お前、元気な。昨日も合コンだったじゃん。」 「あれは、違うよ~。ただのサークルの飲み会~。お前、バカだなあ。うちのサークルでお前に気がある女の子がいたから、紹介しようって思ったのに、ガン無視決めるんだものなあ。」 ああ、あの写メの頭の軽そうな女達か。どれ一つとっても、俺のタイプじゃない。 「行かない。」 俺が拒否すると、タクヤは馴れ馴れしく俺の肩を揉んで来た。 「なーんだよ。まだマユちゃんのこと、吹っ切れないのかあ?」 「そんなわけじゃないよ。」 「だったらぁ~。」 「しつこい!今そんな気分になれねえの。」 「やっぱ引きずってる~。」 タクヤがホッペをつんつんしてきたので、手で追い払う。 違う。そんなんじゃない。 俺は早く家に帰りたいんだ。 もしかしたら、またバッタリと。 そこまで考えて、俺は顔が熱くなるのを感じた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加