隣人が嫌い。

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 昨晩は久し振りに飲み過ぎて、何とか飛び乗った終電で眠気と吐き気と格闘して、どうせワンメーターを少し超える程度の距離だからと最寄りの駅からはタクシーに乗った。酒気を追い出す為に無言で開けられた窓に感謝した。  車内でもなんとか耐える事ができて、漸く辿り着いた1LDKの我が家。吐き出しても大してスッキリしない胃を撫でる。どうにか上着とパンストだけ脱ぎ捨てから、眠気に抗うことをやめた。  生憎の曇天模様。時刻は昼を過ぎた頃。  昨日、昼頃に流れていたラジオで健康にいいと紹介されていた、起きがけに常温の水を一杯飲むことを習慣にする為の一歩は踏み出せたが、飲み過ぎはどうなんだろうか。  三杯目を飲み終えた辺りで、あまり鳴ることのない呼び鈴が二度続けて鳴る。二日酔いの頭に容赦なく響いて、元々低かった気分が降下を始めた。 「はい、どちらさまですか」  肩甲骨を覆うまで伸びた髪は無造作に跳ねているし、シワだらけになったシャツとスカートもだらしない。けど、約束もなしに土曜のこの時間に訪ねてくる誰かに対応するには問題ないだろうと、無愛想に返事をする。 「すみませ~ん……あの、隣に越してきた……」  返ってきた声は弱々しい男のものだったが、越してきたという言葉の後が聞き取れなかった。  引っ越しの挨拶ならもう少しマシな恰好をしておくべきだったと思うも、一度返事をしてしまったのだから仕方がないと、玄関の扉に手をかける。  しかし、訪ねてきた男の顔を見上げた次の瞬間、自分の恰好なんてどうでもよくなった。 「あ~初めまし……て……じゃ、ないっすねぇ」  一応しわが目立たないスーツ姿ではあったものの、その顔色は私よりもずっと青白く、見るからに具合が悪そうなこともそうだが、へらりと笑った男が、かつて私が最も嫌っていた相手でもあったからだ。 .
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