7人が本棚に入れています
本棚に追加
「ずっと本ばっか読んでたよな」
当時、中学生の頃の私は本が一番の友達なのとでも言い出しそうな、大人しい生徒だった。
四六時中文字を追うことにくだらない優越感を見い出して、恋に遊びにと思春期真っ盛りの周囲に冷ややかな目を向けて、あなた達とは違うのよと嘲笑していた。
「あー……うん。てか、よく覚えてるよね」
本当は本の内容なんてサッパリだった。ただどうやって話に入ればいいのか、入れたとしても何を話せばいいのか分からなかっただけ。素直になれないでムキになって、それすらも認めたくなかっただけ。
そんな私に友達なんて出来るはずもなく、同級生からは煙たがれる類の、我ながら嫌な奴だったと思う。でもその嫌な奴に、毎日挨拶をする変わり者がいた。それが今、隣人である彼だった。
「余裕。幼稚園の頃に食べた唐揚げが殆ど生でショック受けたことまで忘れてねーし」
「それとこれとはなんか違うでしょ……でも、生の唐揚げは勘弁」
「ハハ、だろ?」
当時は無精ひげはなく、髪型もセットされていなくて、コンタクトじゃなくて細めの眼鏡を掛けていたし、今みたいに笑うところを見たことがない、どちらかといえば真面目な男子生徒。
おはよう。また明日。最初は私に向けられたものだと気付かなくて、気付いたのは数日後、下駄箱で目を見て言われた時。
同級生ではあるが、挨拶だけの関係。私と隣人はそれ以上でも以下でもなかった。それでも偏屈な私が、こんな私にも声を掛けてくれる隣人を、いつの間にか嫌いになってしまうには十分なものだった。まぁ、それだけだったが。
それからだって私たちの関係はミリとも変わらず、そのまま卒業して、別々の高校に進学した。私は卒業式に風邪を引いて出られなくなったから、隣人を最後に見たのは卒業式の前日で、もう一目位見ておきたかったとか、思っていたような。それだけが残念だったような、気がする。
「そういやさ、卒業式来なかったよな。なんで?」
仕事はそれなりにやってるし、日付が変わる寸前まで飲みに付き合ってくれる友人もいるから、人付き合いも順調で。今の今まで忘れていたのに、どうして今頃になってこんなことになってるのか。
「……まぁ、ただの風邪だよ」
今更何に、期待しちゃってるんだか。
.
最初のコメントを投稿しよう!