隣人が嫌い。

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 家飲みは何度か経験がある。そこに同性だけじゃなく異性がいた事もあった。かといって、どうにかなった事はないけど。酒の勢いで貞操を失うとか、絶対に嫌だったし。 「ねぇちょっと、缶とか蹴飛ばさないでよ」 「っと……ハハハ、悪い悪い」  頭がふらつき始めてる隣人は締まりのない笑顔を浮かべながら答えたが、当然信用ならないので、実は缶が分身しているように見え始めている事は悟られないように、倒れて困る物をつまみだらけのテーブルに避難させる。  コツン。空になったグラスをテーブルに置き、もぞもぞとベッドに腰かけた。  ベッドを背もたれにしていた隣人の背が存外近くにあって、ふと気付く。よくよく考えれば、私は今、軽率な行動を取っているのかもしれない。  いくら中学の頃の同級生だからといって、私達は成人した男と女だ。そういった関係でもないのに、言ってしまえば特別仲のいい友人でもないのに、たった一月や二月そこらの付き合いなのに、深夜に二人きりという状況を生み出してしまっている。  軽々しい女だと、思われたのだろうか。  ……なんて、思われていたとしても、それがなんだというんだ。酒のせいで訳の分からないことを考えているに違いない。  思考を振り払おうと頭を振った。しかし、すぐに後悔する。余計に酔いが回ったような気がした。視界が波打って、ベッドの上にぱたりと倒れ込む。そうすると、もっと背が近くなった。 「……どうした?もう寝んのか」 「……寝たくない」 「そんじゃあ寝とけよ」 「なんでよ」  いつもよりずっと傍に感じる声。そして、頭に乗せられた大きな手のひら。どれもこれも、不快だった。  ずっとずっと、声を掛けてきた時も、今だって。私は彼が嫌いだったじゃないか。  なのに、どうして。 「楓、昔からそうじゃん」  嫌い、きらい。  宥めるような優しげな声色も、ガラス細工でも扱っているような手つきも、じわじわと広がっていく温もりも。 「……そういうの、嫌い」 .
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