22人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「君は何の罪を犯して、ここに落とされたの?」
モナミの指をそっとかわし、僕は訊いてみた。
「同僚の彼氏を寝取ったの」
「そりゃあ………重罪だね」
フフッとモナミが笑い、吐息が僕の唇に触れる。
その時。
まるで舞台演出のように部屋の電気がスッと消えた。
「来た」
モナミが短く言う。
同時に空気がピンと張り詰めた。
「ありがとうね龍一。バイバイ」
温かい吐息。
そして少女の唇がそっと僕の唇に触れ、それと同時に目の前が真っ白にスパークした。
本当に、それは一瞬のことだった。
二度ほど瞬きした僕の周りにあったのは、ごく平凡な、今まで通りの僕の部屋だった。
周りを見回しても、彼女の姿はどこにもない。
ただあの細い指先の感触と、優しいキスの余韻が、僕の唇にしっかりと残されただけで。
あの子はもしかしたら、とんでもない魔性の子なのかもしれないなあ……。
そうだとしたら、きっとそのうち、また下界に落とされる。
ベッドの上にふわりと残された、つややかな黒い羽根を一枚つまみ上げ、僕は一人微笑んだ。
(END)
最初のコメントを投稿しよう!