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「星野さんの隣の部屋、女の人が引っ越して来るみたいですね」
出勤前の僕に声を掛けて来たのは、同じこのアパートの204号室に住む西山さんだった。
「え、202号室に?」
「そう。昨日ちらっと小耳に挟んだんだけど」
「でもこのアパートに住むんだから、若くて可愛い女の子って訳にはいかないでしょうね」
冗談っぽくそういうと、西山さんも「だろうね」と笑いながらゴミ袋を抱えて去って行った。
この築40年のボロアパートに住むのは、僕のような安月給のサラリーマンか、西山さんのような、どこか世捨て人のような独身男くらいだ。
僕の隣の202号室は特に日当たりが悪く、ずっと空き部屋だったのだが、そこに越してくるのはそうとう訳ありの女に違いないと思った。
けれど残業を終え、錆びた階段を上った2階の202号室の前で僕が目にしたのは、何とも小柄で可憐な少女だったのだ。
16~7歳というところだろうか。
訳ありシングルマザーが、高校生の子を連れて引っ越して来た……ってパターンなのかもしれない。
少女は202号室の錆びたドアを開けたり閉めたりしながら、ギィーギィーと軋む音を、不思議そうに聞いている。
肩にやっとかかるくらいのサラリとしたショートヘアがとてもよく似合っている。
チュニックの下から延びる足はほっそりとしていて形が良く、妹が持っていたリカちゃん人形を思わせた。
「油をささないと軋むんですよ。ここのドア」
僕は怖がらせないようにそっと少女に声を掛けると、その横を通り過ぎて201号室の鍵をあけようとした。
こんな所で怖がられて、「隣の男の人が……」などと親に言われてはかなわない。
僕はロリコンなんかじゃないのだ。
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