少し前

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少し前

私は死んだ。 ここはオレが死んだ病室だ。 心臓発作のようだ。 死んでからわかったのだが、 死ぬ条件っていうものがあるんだ。 人は必ず、運を使い果たすと、死ぬんだ。 そして、身体には戻れないんだ。 死んだんだから。 死ぬと魂は肉体と切り放されて、 今のように漂うことになるようだ。 しかし、記憶はあるんだ。 まだ、脳があるから。 魂の形成は、三つのものから成り立っているんだ。 本能・本質・運の数 運がなくなれば、いろんな条件で死ぬんだ。 そして、漂うものとなる。 脳が消えると、本能と本質だけが残り、 自分が誰だかわからなくなる。 そうなった時に死神が来るんだ。 その、身元不明の魂を回収するんだ。 だから、脳にダメージがある死に方をすると、 死神がすぐに回収にくるんだ。 脳にダメージがない場合でも、脳が朽ちていくにつれ、 記憶もどんどん消えていく。 それを防ぐ方法がある。 今、オレの右手には、脳の全てを写した記憶装置がある。 死んだと同時に、この装置を握らされるようだ。 そして今、オレがいったことが、わかるようになっているんだ。 使い方は簡単だ。 この装置を、脳に入れるだけなんだ。 オレもこの装置も、実体はない。 意識すれば、何でもすり抜けられるんだ。 『抜けろ!』と思えば抜けられる。 たから、少々気味が悪いが、片手か両手で装置を持って、 死んだ身体の自分の脳に入れるんだ。 コピーが完成したら、なんとなくわかるようになるんだ。 そして、今のオレの頭だったところに、この装置を置くと、 消えてなくなるはずなんだ。 今、やってみよう。 あ、なくなったようだ。 これで、オレは幽霊というものになったんだ。 今も、そこら中で飛び回っている。 オレたち幽霊同士は、なぜだか触れる事ができるんだ。 魂があるものには触れない。 魂がないものには触れるんだ。 なぜか触る感覚もあるんだ。 今着ている服も、脱ごうと思えば脱げるんだ。 どういう仕組みなのかは、よくわからないが、 こういうもんなんだろう。 頭に入れた装置は、新たに記憶を書き込むようだ。 今、身知らぬ人が、この部屋に入ってきた。 それがわかった事で、書きこまれたとわかるんだろう。 オレの身体だった脳に、記憶が貯められたのかもしれないが。 でも、信じるしかないだろう。 もう少し、この世の中を見てみたいからな。
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