第1章

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「そう言えば、以前、ちょー迷惑な女がおったんですわ。30代半ばくらいの女やったんですけどね。ちょっと遊んでやっただけで、本気になってね。結婚する気でおったみたいなんですよ。誰がそんな年増と結婚します?そのことを伝えたら、その女、自殺しよったんですわ。まるで俺が悪いみたいですやん?」 うわっ、この男、本当のクズだ。最低。 恐る恐る、背負ってる女を見ると、泣いていた。 きっとこの女のことだ。空洞の目からハラハラと涙が溢れ出ている。 俺は無性に腹がたった。 まだ、このバカ男が好きなのかよ。 こんな男のために、泣くのはよせ。 そう思った瞬間、その女がこちらを向いた。 しまった、同情してしまった。 こっちにくんな!来るんじゃない! 俺の思いとは裏腹に、女はどんどん俺に近づいてきた。 ミエルンデスネ? 「それじゃあ、俺、明日仕事あるんで。あ、残った酒、全部飲んでええですよ。おやすみなさい。」 ま、待て。これを、連れて帰ってくれ! 無情にもドアは閉められ、女だけが残された。 嘘だろう? ああ、俺は視えるのさ。 たぶんこれからもずっと。 なんだって?あの男は嘘をついている? そんな話はどうでもいい。 お前はあのクズのところに帰れ! 泣くな、うっとうしい。 わかったわかった。話だけ聞いてやる。聞いてやったら帰れよ? なになに?結婚をエサにしたのは、あいつのほうだって? 結婚したいけど、借金があって結婚できない。 それさえきちんとすれば結婚できるって? 自分にもお金がなかったから、闇金で金を借りたのか。 バカだな。見るからに、クズだろ、あいつ。 なんで見抜けねえんだ。 で?借金だけ残して、トンズラしたわけね?あいつ。 職場にも借金取りに追い立てられて働けなくなって、ソープに売り飛ばされそうになったわけだ。それで自殺か。 あんなクズのために。 泣くな!クズのために泣くなんて勿体無いだろ。 わかった、わかったからもう泣くな。 俺が何とかしてやる。 俺は、バカが忘れて帰った携帯を開く。 酔っ払って忘れて帰ったのを黙っていたのだ。 きっと俺は、こうなることを予測していた。
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