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突如、沸き上がった感情をどうしたら良いのかわからない俺に、姫神は真っ直ぐに俺を見据えて言う。
「───もう嘘なんてつくな」
その言葉が酷く俺の胸に響くのがわかった。
悲しいのか苦しいのかわからないがなんだか、無性に泣きたくなる。
「お前が何を思って自分を偽ってるのか知らねーし、なんでそんな風に自身を演じてるのか見当もつかねー」
一瞬俺から目を反らし、頭を掻いた姫神は再び俺に視線を戻すと、更に言葉を続ける。
「けどな、どんな理由があるにせよずっと自身を偽り続けてお前は辛くねーのかよ」
「……………っ 」
姫神の言葉が、胸にジンと響く…………息がつまる……苦しい……。
俺は嗚咽が漏れそうになるのを必死にこらえる。
泣いてはいけない、俺は皆の憧れの──────
「──お前だって人間だろ、辛いときぐらい口に出せよ。」
「…………!」
そこまで思考した俺は姫神の言葉で、ガンっと頭を鈍器で殴られたような気分になった。
どうして、姫神は今まで誰も気付かなかったことを見透かすのか……。
見透かされるのは怖い……。俺は紛い物で、偽物で……本当は誰かに憧れられるような存在ではない。
あの時、夢見心地立った俺は自身を偽り、他者に憧れられるような架空の誰かを演じ、それらを誰にもバレないようにと、この三年間を過ごしてきた。
演じることを苦に感じたことがないというと嘘になる。
俺は心のどこかでは、ずっと……ありのままの俺を誰かに認めてほしかったんだ……
だからこそ痛いくらいに姫神の言葉が胸に響くんだ。
だからこそこんなに泣きたい気持ちになるんだ。
───あぁ、そうか俺は誰かに本当の俺を見て欲しかったんだ……。
認めてしまえばあとは簡単で、俺の心の中のモヤが晴れていく。
俺は自然と目尻が下がり、唇が弧を描くのが分かった。
「……ありがとう」
泣き笑いのような顔で俺は姫神に笑いかけた。
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