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姫神は一瞬驚いたように目を見張ると、仏頂面で口にする。
「…別にお前のために言った訳じゃねー。俺はお前が嫌いだが、お前に借りがあるのは確かだ。」
「だとしても、俺にとっては充分なんだよ。」
そう、充分なんだ……
誰かにわかって貰えるだけで、今夜に心が満たさせるなんて知りもしなかった……。
俺はそっぽを向く姫神に歩みよって片膝をつくと、姫神の大きくて無骨な手を取った。
「は?」
いきなりなんだと言わんばかりの姫神に、俺は微笑みながら告げる。
「誓うよ、君にはもう嘘は吐かない。」
「いきなりなんなんだよテメーは……」
俺の突然の行動に、心底気色が悪いといった表情の姫神。
俺はそんな彼の様子に更に心中で苦笑しながらも続ける。
「だから、嘘偽りなく告げるよ。──俺は君を守りたい。君の側で君を守らせてくれないか──?」
我ながらキザなポーズとキザな物言いだが、これはもう身体に染み着いてしまったものだから、見逃して欲しい。
それに、俺の今の台詞に嘘偽りは一切ない。
それを感じ取ったのか、姫神は心底不快そうに顔を歪めると、俺の手を振りほどいた。
「───勝手にしろ」
俺に背を向けて歩き去りながら告げられたぶっきらぼうな言葉に俺はポカンと間抜け面を晒し、思わず吹き出した。
そんな俺を首だけ動かして振り向いた姫神がひどく不機嫌そうな顔で屋上の扉を指差す。
「…笑ってねーでとっとと行くぞ。パフェ…奢りなんだろ?」
パフェの部分だけ小声で少し恥ずかしそうに言う姫神に俺はもうたまらずに笑い声を上げた。
「プッ!アハハ!君、意外に食い意地張ってるんだね!」
「……笑うんじゃねーよ、パフェは別だろ」
「いや、別じゃないし!どんだけ甘いものが好きなの!」
どこまでも甘党な彼の台詞に、俺は笑いが止まらず大声で笑い続ける。
そんな俺たちを見ていた周囲のチワワ達は、俺が笑う姿を呆然と「高宮様があんなに笑うところ初めて見た……」と呟いていた。
俺達の会話はこの無駄に広い屋上と風の音で聞こえては無いようだが、流石に俺の大きな笑い声は届いているようだ。
「……笑ってると置いてくぞ」
至極不機嫌そうに鼻をならして歩き出した姫神に、俺は「ごめんごめん」と謝りながら彼の後ろに続く。
結局、決闘の決着はつかなかったが、俺の心はいつになく満たされていた……。
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