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光から着信が届いたのはその翌日、バイトから戻る途中。
ちょうど駅の改札を抜けたところでだった。
その日の内に、光には裁判の日程をメールで報告したから、きっと待ち合わせの時間や場所を決める件だろうなぁ~、とあたりを付けて、呑気に電話に出た。
「もしもーし、どした~?」
駅から自宅までの道のりをゆっくり歩きながら、携帯に耳を傾ける。
電話の向こうの光は小さく何かを言っている。
「なに? 聞こえない。ちょっと待ってね」
丁度駅前のパチンコ屋の自動ドアが開いて、中の騒音に負けて全く聞き取れない。
急いで路地に入って立ち止まった。
「なに? どうした? もう一回言って?」
『明子、私ね、泉さんと向き合おうと思う。
私、ずっと逃げてた。
けど、明子の裁判の日にちが決まったって知って、私もきちんとしようと思うの』
「そっか。泉さんにいつ会うの?」
『あのね、裁判の日。
終わった足で、ウチの駅で待ち合わせすることになって……』
「うわっ! ぶつけてきたなあ~。
でも、私達同時にすっきりできるって、いいわね!」
光らしいなぁ。
そうやって、まじめに向き合おうとするところ、潔いところ、本当に光らしい。
ふふふっ、良かった。光は大丈夫だ。
「じゃあさ、裁判の日はお互いにとって、決戦の日だね! がんばろう!!」
私が強く声をあげると、電話の向こうでも光の意気込みが感じられるくらい、元気な返事が聞こえた。
路地を背に通りから空を見上げると、丁度ビルとビルの間に、ぽっかりと大きな月が浮かんでいた。
駅から家までの道のりなんて、もう10年以上通い慣れているはずなのに、こんなにも綺麗に月が見られるスポットがあるなんて知らなかった。
結局こういうことなんだな、って思う。
場所、タイミング、そして自分自身の余裕。
この条件次第で見るモノ全てが変わってくる。
そうやって人は変わってゆく。
私も。光も。
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