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まあ来るものは拒まず、去る者は追わずの私だけど。
時間というものばかりは、そうやすやすと思い通りにはならない。
早く来て欲しい時はゆっくりと。来て欲しくない時は素早く動く、時間という天邪鬼は、時に速攻、時にフェイント攻撃を私に浴びせながら、あっという間に過ぎ去った。
って、ぐだぐだ言っちゃったけど……。
要するに、裁判の日がやって来た!ってこと。
朝からそわそわする母親を横目で見ながら、そういう私もさっきからチラチラと時計を確認する。
「二人とも落ち着ちつきなさい。弁護士さんが、芳樹君が全面的に認めることになるから、証人喚問はいらないって言ってたでしょう。
のんびり傍聴席に座っているだけでいいんだから」
って、父親が最もな顔で言ってるけど、この人だってこの日のために仕事休んでる。
「分かってるけど。落ち着かなくて……、っていうか、――パパ、ネクタイ変じゃない?」
私が首元を指差すと、えっ?そう? なーんて鏡に向かって「いいんだよ。決戦の日は赤いネクタイなんだから!」だって。
どんな決戦なの?それ。
「とにかく、ちょっと早いけど出発しようか」
運動会の朝を彷彿させるような気合の入った一言で、私たちは車に乗り込んだ。
車の中では、変なテンションになってる母親がひたすら芸能ニュースの話をしている。
知り合いでもないのに、どうしてそんなことまで知っているのか、摩訶不思議な芸能情報をうわの空で聞きながら、今頃リョウはどうしているのかなぁと考えた。
弁護士さんの話では、保釈金の支払いによりすでに釈放されていて、今は来日した芳樹医師とホテル住まいをしている、とか。
『本当にすまなかった……』
頭を下げた芳樹医師の姿がちらついて、私は目を閉じた。
**
「明子、着くわよ」
母親に肩を叩かれて、私は目を開けた。
あ……、今、ちょっと寝ちゃったみたい。
何の気もなしに母親に目をやると、硬い表情をしている。
「ママ、硬い顔してると……、老けるよ~」
和まえようとして、明るく言ったつもりなんだけど、
「もぉ! やめてよっ」
母親の結構本気で嫌がっている声を聞いて、含み笑いをしている運転席の父親とミラー越しに目があったから、少し笑ってみせた。
車を裁判所の駐車場に止めエントランスに入ると、受付で光と音無さん、それから相原先生までが私を出迎えた。
二人はすぐに弁護士さんのところへ挨拶に行った。私は光たちと傍聴すると伝えてあったから、光たちのところへ行った。んだけど……、はっきり言って、異様なオーラが漂っている。
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