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そんなこんなで、もう緊張もへったくれもないうちに裁判が始まってしまった。
けどさすがに、横の扉から静かに入って来るリョウを久しぶりに見た時は、恐怖からでもなく、ましてや恋心のわけでもないのに、ものすごくドキドキした。
私にとってのリョウは……
『ソフトスーツを着こなす、業界人みたいにおしゃれな雰囲気をまとっているのに、ちょっと間抜けな顔を見せたり、狂人のような表情で迫りくる悪魔』
でも今、ここから見る横顔のリョウは、それのどれとも当てはまらなかった。
表情が全く無い。あれ、ホントにリョウなの?
リョウは、被告人席にやや俯き加減んで着席していた。
後ろから弁護士さんに何か言われているようだけど、全く反応を示していなかった。
**
裁判は【証人喚問】に入った。
私の目の前には、親として息子の行動を管理できなかった後悔をポツリ、ポツリと告白している芳樹医師がいる。
その姿を見て、ズキッと胸が痛んだ。
控訴した私を手厚く施術してくれた。
その後定期的に経過観測のフォローもすると約束してくれた。
医師としての責任を貫いてくれた。
それなのに、私は今あなたを苦しめている立場にいる。
ごめんなさい。
感謝こそして然るべきなのに、苦しめることになって。
だけど……。
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