第1章

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俺の家の隣に最近引っ越して来た人がいる。 人、じゃないのだが。 鶴、である。 はじめ、チャイムをならされたとき、玄関の前に立っていたのは鶴だとわかったときは心底笑った。 人間、驚きすぎると笑いが起きるらしい。 さらには、律儀なことに、この鶴、引っ越し蕎麦なんぞを持って寄越した。 新手の嫌がらせか何かだと思った俺は鶴に声をかけた。 「何ですか嫌がらせですか?」 「いや、ほんとに引っ越してきたんですよ」 なんとこの鶴、人語(それも日本語)を喋るらしい。声からしてメスのようだ。 「隣に引っ越してきた、つるやめいこと言います」 「つるや…めいこ?」 名前まであるらしい 「この見た目の鶴に、魚屋とかの屋、めい、はひらがなで、いは難しい方のゐ、子どもの子で鶴屋めゐ子です」 「なかなかに難しい名前だな」 「よく言われます」 絶対小学生のときに困る名前だ、と思った。そもそも書けないじゃないか。 「まぁ、そんな訳でよろしくお願いします」 「どんな訳だよ」 「斯々然々ってやつですよ」 「斯々然々なぁ……」 「あ、最後に一つだけ。絶対に家を覗かないでくださいね」 「なんだ、機織りでもしてるのか?」 「いえ、不法侵入で訴えますので」 なんとも夢のない回答だった。
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