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張りつめていた空気が襖の閉まる音で断ち切れたのか、青年は気怠そうに立ち上がると、袴を静かに整えた。
そして私の方を物憂げに見た。
「えっ」
私は見られない存在ではなかったか?
驚いて思考が止まった私に、青年はまっすぐ灰色がかった瞳を向けて言った。
「ここはあなたの場所ではないよ。あるべき所へ帰りなさい」
響いた声は驚くほど柔らかかった。
そして同時に強く雨のにおいが漂ってきた。耳元に激しい雨の音がうるさいノイズのように聞こえて、私の視界は白く染まっていった。
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