雨が煽る

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雨が煽る

「澪さん! 澪さん、大丈夫ですか!?」 強く肩を揺すられて目を開けた。 頭が重く、何度か目を瞬かせると、目の前に心配そうに私を覗きこむ灰色の目があった。 「良かった。僕の“記憶”に引きずられましたね」 「さっきの……。って、あの人はあなただったんですね?!」 体を起こすと、自嘲するような表情を見せた彼の胸ぐらをしがみつくように掴んだ。 「そうです。あれは、僕です。忘れていましたが、明治時代に生きた僕です」 「そんな…ではあなたは、もう百年以上生きているというの…?」 「さあ、僕には分かりません。もっと生きている気もするし、まだ生まれたばかりのような気もします。こうやって“記憶”を回収していかない限り、僕の中の記憶は欠落したままですから、僕があの僕だとしても、本当にそうなのか。僕のこの雨渡しはいつまで続くのか、何も分からないんです」 「雨渡し?」 「ええ、雨と雨の間を渡り続けて、雨にまつわる風景を見つけて、そこにある幸せの雨を次の雨に渡しながら、通り過ぎていく」 「そんな……。それをずっと? 永遠に?」 「さあ、どうなんでしょう? いつ終わるのかなんて知りません」 「では、さっきのガラスのような……“記憶”を集めれば、分かるのかもしれない……?」 そう目の前の雨の渡り人に言いながら、胸の奥がざわついた。 妙に気分が高揚した。 あの虹色の雨粒を思い浮かべただけで、喉の奥が鳴るほどに疼いた。 それを見透かしたかのように、彼は私を諌めるようにゆるりと頭を振った。 でも、そんな彼の仕草も目に入っているようで入っていなかった。 「探しましょう。あなたの“記憶”を」 「澪さん、待ってください! それは僕の役目です。普通の人であるあなたには無理だ」 私には、無理? 私は普通の人? 彼のまっすぐな言葉が私の胸を突き刺した。
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