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渡り人の継承
どうして、こうなってしまったのか。
生々しく人の首を絞めた感触は消えない。
最後に痙攣して動かなくなった彼の体を両腕に抱いたまま、私は激しい雨に打たれていた。
両手のひらはいまだに小刻みに震え、彼の体を抱きかかえていないと自分自身の方がバラバラになりそうだった。
私は自分が犯したことを突きつけられたまま、堤防の上に立っていた。
結局、名前も知らない、明治時代の人だったという記憶しか知らない雨の渡り人の亡骸は、ゆっくりと重みを増して、抱えきれなくなった。ずり落ちた彼の体をのろのろと堤防の上に横たえて、見開いたままの灰色の目を見ないようにして彼の瞼を閉じさせた。
謝罪の言葉なんて出てこなかった。
ただ呆然と、時間ばかりが過ぎた。
気づいた時には、雨のにおいが濃くなっていた。生臭い、でも懐かしいにおい。
髪から滴り落ちる雨の雫は、まるで一本の水の糸のように流れ落ち続けていた。
ふいに彼の体の輪郭が揺らいだ。ぼやけて水のように透き通り始めた。雨の渡り人の体は降り止まない雨と同じ色になって、彼が彼の形をなしていたものでなくなっていく。
その様子はとても荘厳で、液体と化した彼の中心で虹色の光が螺旋を描いていた。
あの“記憶”の光だった。
ああ、こんなところにあったんだ。
思わず掴もうと手を伸ばした。
ゴオッッと音を立てて、雨が逆行した。
天から地に落ちていた雨粒の大群が、地から天へと。
悲鳴をあげた瞬間、完全に雨粒と同化した彼の体が放射状に飛び散った。そして中心にあった虹色の光は、まっすぐ私に突っ込んできた。
思わず腕で顔を覆った。それを跳ね飛ばすほどに虹色の洪水のような力が、私の胃の辺りに激しい奔流となってぶつかってきた。
あまりの眩しさに、意識が飛んだ。
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