第1章

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には手の届きそうな処に島が見えている。 雄二は1度自分の居室に戻りベッド脇に貼った海図を眺めてみた。    「聟島(むこじま)だ」 雄二は慌ててまた左舷デッキに飛び出した。 初めて見る小笠原の聟島は想像していたより遙かに大きく、前方には嫁島や遠くかすんで弟島までもが見えていた。      小笠原・父島 雄二が左舷甲板で近づいては遠のいていく小笠原諸島の島々を飽きずに眺めて2時間近くも経ったのだろうか。船内にブザーの音が鳴り響き、    「まもなく二見港に入るので全員着岸の準備をせよ」 との指示がスピーカーから流れてきた。 雄二が慌てて持ち場に着くころ「うらが」はゆっくりと小笠原・父島の烏帽子岩南端 を周り大村湾に入っていった。 普段は東京?小笠原間を定期就航している「小笠原丸」の着岸地点付近に、かなりの数の島民が出迎えに来ており、その島民達の中に突っ込む様な形で「うらが」は着岸した。 雄二は早く上陸したい気持を抑えて、着岸後の作業をこなし、やっと東京都小笠原村父島に降り立った。 長い時間船上にいたからだろうか、ふらつく足をしっかりと踏ん張って、出迎えてくれた人々の中に入っていき、第3管区小笠原保安署の署員達一人一人に挨拶して廻った。 小笠原海上保安署は湾を挟んで二見港の奥の方に有り、瀟洒(しょうしゃ)な白い建物である。 門を入るとバナナなどの熱帯植物が植えられており正面の玄関入り口の右側に執務室があった。 雄二達「うらが」の乗組員はこの保安署で3日間待機するのである。 雄二は東京から1、000km離れた熱帯の島で、その晩泥のように眠った。 翌朝起こされて目覚めると、時計はもう7時半を廻っていた。急いで、出された朝食を平らげていると交代勤務の署員が出勤してきた この保安署には4人の署員が詰めており、うち2名は24時間体制で海の治安に当っている。 今日は特別に雄二たち新人に島を見物させてくれるという。 非番の署員の一人が自家用の軽自動車を持ってきてくれた。巡視船「うらが」の新米保安士3人はこの軽自動車に乗り込み珍しい景色にキョロキョロしている。 小笠原父島の広さは東京都千代田区の2倍ほどの24平方?qでありその周囲は約52?qである。島には固有の植物、動物が生息しており、これらの島外持ち出しに目を光らせるのも、保安署職員の仕事だそうだ。
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