第1章

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何しろ本土から1000?qも遠く離れた場所だけに、警察、消防、入国管理事務所、漁協、そして海上保安署までが一体となり協力しあって人数の不足を補っているという。 3人を乗せた自動車は、まず二見港近くの海洋センターに向かった。 ここには小笠原の海に棲む魚や珊瑚などの標本が展示されており、屋外には50匹はいるであろうか真っ黒い甲羅をした、直径3センチほどのウミガメの赤ちゃんがまるでゼンマイ仕掛けの玩具のようにかわいらしく動き回っていた。 この島にはアメリカ軍の戦闘機の残骸が散らばっていたり、朽ちた山砲が置き去りになっていたり、また壕の中から真っ赤に錆びた高角砲が不気味に砲口を覗かせていたりと、雄二の生まれるずっと以前の、それでも話だけは何度も聞かされている第二次世界大戦の爪痕がくっきり残っており、綺麗な夕日を見ることが出来るというトーチカに入った時など何だか二の腕が粟立つほどに背筋の寒さを感じたほどであった。 夜になると新人3人の歓迎会と称して、表通りから一本奥に入った、なにやら細い道を行った処の居酒屋へ連れて行かれた。 さほど大きくない店内はどことなく南国風で、雄二は昨日初めてこの島に上陸したときに感じた「ハワイの風」(彼はハワイなど行った事はないが)がこの酒場にも吹いている様な気がした。 ここで雄二は、生まれて初めてウミガメの刺身というものを食べた。 ガラスの深皿にクラッシュアイスが一面に盛られており、その上に馬刺の様な肉がのっている。 先輩達に勧められて一切れつまみ上げてみる。大分高価なものらしくクラッシュアイスの上には1枚1枚が綺麗に並べられていた。 おろし生姜を溶かした醤油をつけておそるおそる口の中に入れてみた。    「?????」 ほとんど味がしない。 何となく馬の肉の様な、鹿の肉のような歯ごたえではある。 そのことを口にすると、     「馬鹿か!」 と、大笑いをされた。 大いに飲んだあと、小腹がすいたろうと島寿司を注文してくれた。 これがまたおかしな食べ物で、後で知ったことだがこの小笠原や沖縄などの亜熱帯の島では至極普通の食べ物らしい。 たぶんカジキマグロと思うが、これを軽く醤油付けにしたものが握った飯の上にのっており一見普通のにぎり寿司だが、飯と具の間に入っているのが、ワサビではなくカラシなのだ。
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