第1章

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船橋の扉を開けると、真っ暗な室内に青いレーダーの画面がぼんやり見える。そして前方 の窓辺になにやら人の気配が有る。が、ともかく暗くて動くことが出来なかった。     「友田雄二、捜索活動に参りました」     「ごくろうさん、捜索の位置に就いて下さい」 雄二は暗闇に慣れ始めた眼で添え付けの機器の位置を確認しながら手探りを交えておそる おそると窓辺へ寄っていった。     「どーーん」 と言う音と共に船は激しくピッチングをする 左手で手摺をつかみ右手で双眼鏡をあてて覗き込む。 だが一面黒く見えるだけで何も見えなかった。 双眼鏡を少し上に向けると、白くしぶいて泡立っている海面と、その上方に空との境が はっきりしない水平線とが見て取れた。 しかしそれも一瞬で大きく船が揺れると双眼鏡の中の画面は一面黒色になってしまって いる。 空が徐々に白みはじめ、周りが見え始めてきたと同時に遭難の概略が掴めてきた。 第7回ジャパン・グアムヨットレースに参戦中のレース仕様の外洋型ヨット「シーマリ ン」は女性一人を含む9人のクルーを乗せてレースをしていた。 だが12月27日15時42分、青ヶ島の東方沖を航行中に、現在のGPSに変わる NNSS(米海軍衛星航法システム)のアンテナにライナーが絡んだため、それを取ろ うとしたクルーの石川さんが落水したもので、「シーマリン」は自己点火灯を点けて捜索 したがいまだ発見に至っていない。 という内容のものだった。 28日未明、遭難現場に到着した「うらが」は直ちに落水者に対しての捜索を開始し、 ワッチ中の者以外の乗組員全員が、波高5mを超える大時化の中、双眼鏡を片手に眼を血 走らせて海面を見つめ続けた。 12時5分、「シーマリン」から連絡が入った。 船酔いのひどい、女性クルーの伊東さんを移乗させて欲しいとの要請である。 もともとヨットというのは帆を上げ、風を切って走る船である。それが落水者捜索のた め帆を下ろし小さなエンジンで、大時化の中を機走しているので、ピッチングとローリン グは想像を絶する程になっていた。 そんな中で船酔いがひどくなった伊東さんは遂に我慢の限界を超えたのだ。 「うらが」からすぐに警救艇が降ろされた。 丁度待機中の雄二は同期の新人岡本航海士捕や先輩保安官と一緒に警救艇に乗り移った。
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