第1章

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警救艇は白く泡立ち吼え狂う海上を飛ぶように「シーマリン」に近づいていった。 女性クルーの伊東さんはまるで死人のように白い顔をして毛布にくるまって寝そべってお り、時折をけいれんしていた。 雄二らは素早く慎重に要救護者を警救艇に移乗させると、先ほどより速度を抑え「うらが」 へ戻っていった。 横浜保安部と連絡を取り合っていた「うらが」の船橋では伊東さんがけいれんを起こして いることから生命の危険を考慮し、横浜港へ帰港することに決定、現場海域に向かって 航行中の第4管区所属のヘリコプター2機搭載の大型巡視船「みずほ」に後の捜索を頼 んで母港へと船首を向けて走り出した。 「みずほ」は「うらが」より約25m長い130mで幅も約1m広い15.5mあり、 ベル212型のシーボーイという愛称が付いたヘリコプターを2機搭載している国際航海 が可能なPLH21巡視船で1991年3月まで横浜保安部に所属していた新鋭船である 「うらが」からバトンを受けた「みずほ」は「シーマリン」の近くを航行していたが、 15時頃「シーマリン」から八丈島までの曳航を要請された。 最大波高6mを越える中「みずほ」はもやい銃を撃ち、ロープを「シーマリン」に送るこ とに成功した。 だが強烈な時化でロープが切れてしまい、2度、3度と試みたがことごとくうまくいかず、 日暮れと共に曳航を断念しなければならなかった。 「みずほ」は互いどおしの船が接触する危険を避ける為、1マイルほど距離を取って見守 ることになった。 真っ暗な海上の「シーマリン」から無線電話を通じて    「異音がするので移乗したい」 と言う連絡が入った。 しかし荒れ狂う海上でしかも夜間であることからかなりの危険を伴うため移乗の許可は 出せなかったのである。 未明になって急に外洋型ヨット「シーマリン」が転覆し8人の乗員の内6人が船内に 閉じこめられた。 また、かろうじて脱出した二人はラダーに掴まっていたがひとりが行方不明となってしま った。「みずほ」は未明の海上をサーチライトを照らして捜索したが荒れ狂う波に遮られ、 この不幸なヨットを発見することが出来ずにいた。 ジャパン・グアムヨットレースで遭難事故発生の報を受けた、羽田に基地を置く第3管 区所属の海における救難のエキスパート集団である特殊救難基地では夜が白むのを待って
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