第1章

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所属のジェット機「うみわし」を発進させて事故海域の捜索を始め、10時頃船底をさら している「シーマリン」を発見。そのラダーにロープで身体を結わえ付けている乗組員を 発見して巡視船「みずほ」に位置を連絡、「みずほ」から降ろされた警救艇がまっしぐ らに「シーマリン」に急行し救助活動を開始したが1名を救助したのみで、尊い7名の命 が奪われた。 その日は12月初旬とは思えないほど陽の光がまぶしく、汗ばむ陽気の日曜日だった。 矢田祐樹は今月末のヨットレースに着ていくつもりの防寒用のブルゾンを探して、横浜の スポーツ用品店に来ていた。 スポーツ店の店長は矢田に、最近流行り始めたばかりの、フリースのブルゾンを薦めてい た。 それはペットボトルから作った再生品のものはなく、しっかりした厚みをもつポーラテッ ク3000という素材で作られたフリースのブルゾンで、温かく、風もほとんど透さない という店長の言葉であった。 矢田は少々値は張るが彼の今までの経験から、冬の海に着るにはと、このブルゾンを買い 求め三浦半島の油壷へと急いだ。 油壷のマリーナには、今日訪ねていくヨット界の先輩である松井さんが、新艇と思しきヨ ットの傍らで大声を出して何かしきりに話していた。    「今日は、松井さん」 矢田の声に浅黒い顔をした松井は振り返って矢田を見た。    「オー、佑ちゃん。よく来てくれたな。     さっそく、艇長を紹介するよ。」 松井は優しい感じがする一人の男を矢田に紹介した。    「山田さん、こちらがいつも話していた矢田君です。     かなりベテランのヨットマンで私が太鼓判を押して推薦しますよ」 艇長の山田と言われたおよそヨットマンには似つかわしくない男は、それまでしていた作 業の手を止め矢田のそばにやってきた。    「私がオーナーで艇長の山田です。     わざわざ来てくれてありがとうございます。     よろしくお願いします。」 矢田は12月初旬のこの日、レースに参戦するという「シーホーク号」と初めて対面した。 しかしどう見ても外洋型のレース艇にしてはバランスのよくない船に思えてならなかった。    (この艇でジャパン・グアムカップに参戦できるのか?) それに、この時期になってまだ偽装作業をしているのも気になっていた。 やはり矢田の予感は的中した。
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