第1章

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さほど激しい抵抗もなく木造船の船長が現れ保安官によってその場で逮捕されたのである。 木造船は取り調べのため、厳原港まで曳航され、警備救難課長である吉永は部下たちに船 内をくまなく捜索するように命じた。 その結果、驚くべきことが判ったのであった。 まず、船名が書いてある韓国語の上からグリースをべったりと塗り付けて見えなくしてい たのである。 そしてベニヤ板を打ち付けた壁の中に1畳ほどの小部屋を作り、中には息をひそめた韓国 人が6名も折り重なって居たのであった。 明らかに密入国である。 吉永警備救難課長は密入国ほう助の疑いで、その場で韓国人の木造船船長に手錠をかける と同時に取り調べを開始するため韓国語の通訳の同席を要請した。 暑かった夏にも、ようやく涼しさが見え隠れするようになった初秋の午後、夕闇が迫り始 めた対馬海峡を国籍不明の小型漁船が東進していた。 発見した哨戒中の巡視船「むらくも」は、ここが日本の領海内であることを知らせ、すぐ に領海外に出るよう勧告した。    「ただちに領海の外に出なさい。さもなければ発砲する」 「むらくも」の乗組員たちは不審船の形から普通の漁船ではないことを見抜いていた。 数回の勧告にも全くの無視を続けていた不審船から「むらくも」に対していきなりロケッ トランチャーが発射された。 びっくりしたのは「むらくも」のほうである。 今まで体当たりをされた経験は何度となくあるが、いきなりロケットランチャーを撃って こられるとは想像もしてなかったのである。 幸いロケット弾は当たらなかったが、「むらくも」の船長、木島からの連絡を受けた第7 管区保安本部では独自に対処することができず、東京の海上保安庁に連絡、指示を仰ぐこ とになった。その間にも現場では不審船から自動小銃を撃ちまくってきていた。 海上保安庁ではやはりここも独自の判断が出来かね、政府に指示を仰ぐことになり急遽政 府の関係省庁が協議を始める有様であった。 吉永はすぐに「むらくも」に、不審船との距離をとるように指示し、様子を見ることにし ながら、はっきりと指示できない自分に腹を立てていた。 またこの事をマスコミが嗅ぎ付け、テレビ、ラジオで大きく報じ、テレビなどは現場の状況 をライブで画面に流したたため、    「海上保安庁、応戦しろ」    「ミサイルで沈めてしまえ」
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