第1章

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などといった巡視船が積載していない火器まで持ち出す世論の声もあった。 そんな声が巷で大きくなっていき、あまりの巷の声の大きさに政府もついに重い腰を上げ ざるを得なくなった 。 結論が出たのである 「第7管区所属巡視船「むらくも」は国籍、船籍ともに不明の不審船に対し、命令に従わず 抵抗する場合は威嚇射撃もやむを得ない」 というものである。 ただちに吉永は、「むらくも」船長の木島に対し、乗組員の安全を確保しながらの応戦を 許可した。 しかし乗組員の反応は複雑であった。第一に常に訓練を重ね、射撃の腕にも自信はあった が、それは海上に浮かぶ無機質の標的であり、実際に人間あるいは人間の乗った船に銃口を 向けたことがないからで、そうした結果どうなるのか、予想もつかない事であった。 不審船からはひっきりなしに自動小銃弾が撃ち込まれており、「むらくも」の艦橋等が 被弾した。 そしてついに木島船長は射撃開始の命令を下したのである。 艦載のブローニングM2重機関銃、(M212.7ミリ機関銃)には実弾と曳光弾が装着され、 不審船に向けて轟然と火を噴いた。 曳光弾とは実弾10発に1発程度の割合で装填し、光を放って飛ぶ弾丸のことでこれによって 飛ぶ弾丸の方向を瞬時に確かめることができ、銃口の方向を修正できるようにしたものである。 巡視船からの応戦は、当初空にむけた威嚇射撃であったが、不審船からの銃撃が激しく、 停船にも応じない為ついに不審船の機関部に向けての銃撃となった。 月のない暗闇の海上に、曳光弾が尾を引いて流れ、M2重機関銃の独特の発射音が海上に こだましている。 一方、軽やかな自動小銃の連射音が聞こえ、時々、巡視船の操舵室に当たる金属音が響いて きていた。 M2重機関銃の銃座で標的を定めていた豊川保安官は今までの経験から、不審船の船首から 4分の1程度のところにあると思われる機関部に標準を合わせ、引き金を絞り込んだ。 狙い通りの位置に曳光弾が吸い込まれていった、とみると、次の瞬間、誰もが驚いた。 機関が被弾して不審船は停止する。と思ったとき不審船は大音響を上げて爆破、炎上して 沈没したのである。 一瞬の出来事であった。 豊川保安官が狙った場所は不審船程度の大きさの船舶では、通常の場合エンジンの積んで ある位置であり、たぶん改造して武器用火薬庫にしてあったものらしい。
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