第1章

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「はたぐも」は一度左にぐっとヒールすると船首を波間から浮かして、集まっているヨッ トの群れめがけて疾駆していった。 同時に    「左舷15度に水上オートバイの転覆」 大垣船長の潮風で鍛えた野太い声が船内に響き渡る。 ヨットの群れを通り越したその先に、水上オートバイが弧を描いて走っており足首を水 上オートバイとロープで結んだ男性が海面に顔をつけたまま引きずられている。    「機関停止」 機関室でワッチ中の雄二は、すぐにレバーを機関停止位置に回す。 水上オートバイの100mほど手前で停止した「はたぐも」は救命用のゴムボートを降ろ した。 スタンバイしていた乗組員がゴムボートに乗り込み、40馬力の船外機をつけたゴムボ ートは海面を飛ぶようにして水上オートバイに近づいていった。 水上オートバイから投げ出された若者が失神しているとの報告をゴムボートから受けた 大垣船長は、第3管区本部に対してヘリコプターの発進、応援を要請した。 要救助者がヘリに収容され、横浜方面に飛び去り「はたぐも」が船首を堀越(ほりごえ) 海岸の方へ向けて航行を始めたとき、第3管区保安本部から落水者発生が入電された。 場所は平塚、相模川の河口付近という。 「はたぐも」は再び機関の回転を上げ、マストの上に付いた赤灯を回転させて馬入川河口 に向かって波を切って走り出した。 ワッチを交代し甲板で行く手を凝視していた雄二が、ふと左舷後方を見ると江ノ島保安署 の、「はたぐも」よりひとまわり以上小さな巡視艇が白波を蹴って飛ぶように走ってくる。 濃いグレーの船体のマストに赤色回転灯を灯し、船尾に掲げられた日章旗と、海上保安庁 を示す紺地に白くコンパスを描いた庁旗がちぎれんばかりにはためいている。 そのグレーの巡視艇の甲板で作業服を着て前方を見つめていた真っ黒な顔の乗員が、雄二 を見つけ、こぼれそうな白い歯を見せて鮮やかな敬礼を送ってきた。 晴れ渡った空の下相模川河口は白く泡立って渦巻いていた。 「はたぐも」は河口を望む500mほど沖合に停船し、40馬力の船外機を積んだゴムボ ートを降ろした。 今度は雄二もウェットスーツを着てゴムボートに乗り込み船外機のマニュアルハンドルを 持ってボートを操船して現場海域の捜索を始めた。 落水者を出した17フィート(約5m)のモーターボートへ接弦し、モーターボートの関
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