第1章

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係者への事情聴取をしていた江ノ島保安署のグレーの巡視艇が、事情聴取を終え雄二の乗 ったゴムボートへと近づいてきた。    「おーい友田」 自分の名前を呼ばれた雄二が振り向くと、グレーの巡視艇で手を振っている男がいる。 雄二と同期に保安学校を卒業し、下田の保安部に配属された土屋幸造だ。    「落水者は大原公俊さん、33才、河口出口で操船していた秋山光男さんが面舵を     とった際、左舷からの横波を受け船尾で立ち上がっていた大原が落水したもの。     秋山さんはすぐに落水地点までボートを戻し、落水者捜索に当ったが不明のため、     118番通報をした。そう言う状況だ」 巡視艇をゴムボートに接近させると、土屋は事務的な口調でそう告げた。 相模川河口の平塚新港には、すでに地元の消防車が数台赤灯を点滅させて停まっており 消防の救助隊がエンジン付きゴムボートにサーフボードを曳航して落水地点を捜索してい た。 空からは白い機体に赤いラインの入った横浜消防署の防災ヘリ「はまちどり」も捜索に 加わっていた。 そして「はまちどり」よりひとまわり大きな機体で、これも純白の中に鮮やかなライト ブルーのラインをあしらい、濃紺色で図案化した「S」の字を浮き上がらせた海上保安庁 の救難ヘリ「いぬわし」と真っ赤な機体の東京消防庁の大型ヘリ「ひばり」も応援捜索の 爆音を轟かし始めた。 たまたま好天に恵まれたゴールデンウェーク期間中だったこともあり、近くには大勢の釣 り人達が思い思いに糸を垂れていたが、一体何事が起きたのかと付近は騒然となった。 雄二の操船するゴムボートは、複雑に積み重なったテトラポットの間を丹念に捜索して いった。 一方、ウェットスーツを着て空気ボンベを背負った平塚消防署のダイバー達も懸命にテト ラポットの隙間を探し回っていた。 多くの人びとの捜索にもかかわらず、落水者の大原さんは発見出来ず、無情にも夕闇が迫 ってきた。 これ以上の捜索は2次災害誘発の危険があると判断した捜索本部はその日の捜索を中止し たのである。 その後江ノ島保安署と平塚消防署の毎日の捜索により、1週間後落水者大原さんの遺体が テトラポットの僅かな隙間に挟まっているのが発見され、毎日岸壁で見守っていた家族の 元に帰っていった。      結婚、そして・・・
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