第1章

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台風に巻き込まれ、二見港に緊急避難する途中で、メインマストが折れ航行不能との事で あった。 小笠原保安署は署長を入れて5人が交代で勤務にあたっており、このような緊急時には署 員全員が対応に当たらなければならない。 雄二は激しい雨の中を、雨がっぱを着こんで、自転車に飛び乗り駆けつけていった。 横殴りの暴風雨のなか、真っ暗な中にひときわ明るく小笠原保安署の建物から明かりが こぼれており、中に人影が動いているのが見えた。       「ご苦労さん」    「状況はどうなんですか?」 署長の安川に聞いてみた。    「野本!、友田君に説明してやってくれないか」 傍らにあるレーダーからの青白い明かりが野本と呼ばれた保安官の顔を照らしている。    「フランス人夫婦の乗ったヨット「ポンピドー号」がマストを折って帆走出来なく     なったと言う無線で救助を要請してきたんですが・・・」    「台風の進路はどうなんですか」 雄二はレーダー画面をを睨んでいる野本に聞いてみた。    「父島の西南西、約80キロの海上で中心気圧946ミリバール、風速は最大     55メートル程度で、西北西に向かっています。」    「かなり厳しい状況ですね」 雄二の言葉に、野本は    「波高は8メートル前後です」 その声に黙って海図を見ていた署長の安川が反応した。    「今、「しきしま」はどこに居る?」    「「しきしま」は現在父島の東北東約45キロです」 若い栗原保安官が答えた。    「う???ん、ポンピドー号の現在位置は?」    「南西海上約1800メートル」    「友田君」 安川署長が雄二に声を掛けた。    「「さざんくろす」を出せるかなあ」 小笠原保安署には「さざんくろす」という全長10メートルの特殊警備救難艇があり、 この暴風雨の中で波にもまれながら出番を待っている。    「了解、出せます。」 雄二のこの一言で遭難ヨットへの対策が決定した。 雄二を含め、栗原、野本の3人はオレンジ色のウェットスーツを着込み、その上から ライフジャケットでしっかり装備すると嵐の中を飛び出していった。 高速特殊警備救難艇「さざんくろす」の 200馬力のエンジンがうなりを上げると、 白い船体はものすごい勢いで飛び出していった。
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