第1章

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まい、2度・3度と通ううちに島に住みついてしまうというケースが多く、彼女たちはダ イビングの免許を取って、昼間は海中散歩を満喫し、夜はスナックでアルバイトをして糧 を稼ぐという生活を2、3年続けている。 もともと、海が好きで来ているのだから生活態度も堅実であり、明るく楽しく青春を謳歌 しているのである。 そういう彼女たちが清海をかわいがってくれ、また、その期待を裏切らないような仕草、 態度で愛嬌を振りまく清海は、すっかり小笠原父島の小さなアイドルであった。 こうして雄二一家の父島での生活も慣れてきた頃、久美のお腹に第2子が宿った。 今度は男の子だろうと、雄二は大喜びで久美の身体を気遣いできれば早いうちに、島の人 たちが言う「内地」に戻った方が良いと勧めたが、雄二の寂しがりな性格を知っている久 美は、なかなか首を縦に振らず、ぎりぎりまでこの島に居る覚悟を決めたのであった。 その日、朝から久美は忙しかった。 父島に1軒しかない、スーパーマーケットに 買出しに出かけ清海の大好物の南国の果物、 パッションフルーツを大量に買い込み、てんぷらにすると美味いこれも南国の特産である 四角豆を求め、そのほかケーキを作る材料をいろいろと買ってきた。 イチゴが好きな清海の為に、ケーキのデコレーションをイチゴで飾ってやりたかったが、 さすがにこの時期に南国の父島にはイチゴは無く、やむを得ずさくらんぼの缶詰を購入して 華やかな飾り付けをした。 清海、2歳の誕生日である。 その晩は雄二も一緒になって歌をうたい、ダンスをし、清海が疲れ果てて眠るまで大騒ぎ をしたのである。 そして久美は翌々日、清海を連れて小笠原丸の1等船室で、実家である静岡に帰っていっ た。 朝、昨晩から点け放しになっている雄二の枕もとのパソコンから    「パパ、おはよう、おっきして」 モニターに清美の顔が映し出され、元気の良い声が外部に繋いだスピーカーから聞こえて きた。    「清美ちゃん、おはよう。早いねえ」    「あのね、清美ちゃんなんかお顔も洗って、もうお口もクチュクチュしたんだからね」    「すごいね」    「じゃあね、ばいばい」    「あのさ・・」 と続けようとしたときモニター画面は妻の久美の笑顔に変わっていた。    「もしもし、早く起きないと遅刻するわよ」
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