第1章

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清海は大きな子供用のサングラスを掛け、キティちゃんの絵が描かれた小さなリュックを 背負い、久美の腕には丸々とした男の子が抱かれていた。 そしてその後ろからは、それぞれ大型のキャリーバックを引いて久美の両親が付いて来て いた。 雄二の家にまたにぎやかな日が灯ったのである。 エピローグ 東京から1000km離れた南海の小笠原父島から、雄二一家が横浜に帰ってきたのは 清海が3歳半、弟の誠一郎がやっと1歳になった秋の事であった。 横浜保安本部に転勤した雄二はある日、上司の諸墨次長に呼ばれた。    「友田君、どうだろう、保安大に推薦しようと思うのだが、     君は行く気があるかね」 海上保安庁には保安学校と保安大学があり、保安大学を卒業すると幹部として将来が約束 されるのである。 そしてこの保安大は保安学校卒の職員の中からも上司の推薦で編入できる仕組みになって おり、諸墨は雄二にこのことを言うのであった。    「はい、大変ありがたい話ですが一度女房とも相談してみませんと」    「それはもちろんだ。だが返事は早いほうがいい。     今晩にでもよく相談してみてくれないか」 その晩、久美にそのことを話すと    「いい話じゃあない。ぜひ行くべきだと思うよ」    「しかし、まだ誠一郎も小さいし、清海も手が掛かるから、     久美一人じゃあ大変だと思うよ」 寂しがり屋の雄二は、また一人で広島の呉での寮生活はしたくなかった。    「だって1年でしょう。     大丈夫よ。広島って言っても新幹線で4時間もあればいくんだし」     久美にそこまで言われるとそれ以上の抵抗はできない気がした。 翌日、雄二は諸墨次長の前で    「ぜひよろしくお願いします」 と、呉行を承諾したのである。 ここで筆者はひとまず筆をおくことにしよう。 そして、雄二が呉から返ってきた時にまた、雄二と久美、清海、誠一郎のその後を 記してみたいと思う。                                   完
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