第1章

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歓声が聞こえた。 5月の連休には帰るという雄二からの連絡を受けて雄二の父親と母親は 羽田まで迎えに来ていたが、あまりにも多くの友人たちに囲まれ一段と 逞しくなった雄二を見て、そばに行かれないまま、声もかけずにそっと 引き返した。      巡視船うらが 雄二は狭い巡視船の便所をせっせと掃除していた。 雄二が横浜保安部に着任の挨拶をすると、すでに雄二の勤務場所は 決まっていた。 第3管区所属の巡視船「うらが」の機関士捕として乗船せよと言う。    「期間は約2年の予定、次回の出航は3日後であり、     1回の航海は10日間程度の予定である。     それまでは自宅で待機してよろしい、3日後の     朝9時に横浜保安部に出勤する事。   以上」 と申し渡された雄二はその晩久しぶりに、横須賀に住む泰代に電話をした。 長い間泰代の携帯電話から受信音が流れているようだったが、泰代は全く 電話に出る気配が無かった。 雄二は仕方なく、泰代の自宅の電話番号をプッシュした。 今度は2・3回のコールですぐに相手先が出た。 穏やかな女性の声である。    「今晩は、私、高校で同期だった友田と申しますが、     泰代さんいらっしゃいますか」    「やすよ~、友田さんとおっしゃる方からお電話よ」 受話器の向こうで泰代を呼ぶ声が遠く聞こえる。    「お待たせしました。」 泰代の屈託のないいつもの明るい声が電話に出た。    「今晩は、暫らく。     久しぶりだからどうしているかと思って電話したんだ」    「えっ、友田君?、何時帰ってきたの」    「今日帰ってきたんだ。明々後日(しあさって)まで     時間が空いたんだけど、明日逢わないか」    「そうねえ、久しぶりに逢いたいし、いいわよ」 翌日、雄二は約束時間の30分ほど前に、まちあわせ場所の横浜駅西口に 出かけて見ると、そこにはもう泰代が眩まばゆい日差しの中で白いワンピ ースの裾を風にひらひらさせて待っていた。 高校時代の3年間、お互いに好意を持っていた二人は、周りからも羨望の 眼(まなざし)で見られるほどの仲むつましさで付き合っていたが、社会 人として成長した泰代は何故か光って見えた。    「やあ、暫くだね」    「帰ってくるなら連絡してくれれば迎えに行ったのに」    「ごめん。なんだかんだといろいろ忙しくてさ」
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